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交通事故の知恵袋

「飲んだら乗るな」

昨今,飲酒運転に対する罰則が強化されるなど,飲酒運転に対する社会的批判が高まっておりますが,それでも飲酒運転はなくならないのが現状です。今回は,このような飲酒運転をした場合に,運転者や同乗者が負うこととなる法的責任について,説明させて頂きます。

1 飲酒運転をした場合

(1)刑事上の責任

飲酒運転をした場合,運転者は,以下で述べる通りの刑事上の責任を負うことになります。

■酒酔い運転:5年以下の懲役又は100万円以下の罰金

■酒気帯び運転の場合:3年以下の懲役又は50万円以下の罰金

ここで,「酒酔い運転」というのは,アルコールの量に関係なく,アルコールの影響により正常な運転ができない状態をいい,「酒気帯び運転」というのは,呼気1Lにつき0.15mg以上のアルコール量が検出された状態を言います。

なお,飲酒運転により,被害者が死亡又は負傷するような事故を起こした場合,危険運転致死傷罪(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律2条)が成立し,1年以上20年以下の懲役(被害者が死亡した場合)又は15年以下の懲役(被害者が負傷した場合)が科される可能性があります(もっとも,飲酒運転による死傷事故が発生した際にしばしば取り上げられることですが,危険運転致死傷罪の成立要件は非常に厳しいため(「アルコールの影響により正常運転が困難な状態で走行したこと」を立証することが要求されます),加害者に危険運転致死傷罪の責任を問うハードルは非常に高いというのが現状です。)。

(2)行政上の責任

また,飲酒運転をした場合,運転者は,以下で述べるとおりの行政上の責任を負うことになります。

■酒酔い運転の場合:欠格期間3年の免許取消(違反点数35点)

■酒気帯び運転の場合:①体内のアルコール量が呼気1Lにつき0.25mg以上の場合,欠格期間2年の免許取消(違反点数25点),②体内のアルコール量が呼気1Lにつき0.15mg以上0.25mg未満の場合,90日間の免許停止(違反点数13点)

もっとも,これは飲酒運転のみで検挙され,かつ,過去に違反歴がない場合の処分ですので,具体的な処分内容は,運転者の違反内容や過去の違反歴等によって異なります。

(3)民事上の責任

飲酒運転をして交通事故を起こしてしまった場合,運転者が交通事故についての損害賠償責任を負担することになることは当然です。

そして,運転者が飲酒運転をしていた場合,飲酒運転をしたことが著しい過失又は重過失に当たるとして,過失割合が修正されますので,運転者は,通常の過失割合よりも5%~20%程度重い損害賠償責任を負担することとなります(酒酔い運転の場合,重過失として10~20%程度修正され,酒気帯び運転の場合,著しい過失として,5~10%程度修正されます)。

2 飲酒運転をしている自動車に同乗した場合

(1)刑事上の責任

飲酒運転をしている車両に同乗しただけでは,刑事上の責任を問われることはありません。

しかしながら,運転者が飲酒していることを知りながら,自らを乗せることを要求したり,依頼した場合には,以下で述べるとおりの刑事上の責任を負うことになります。

■運転者が酒酔い運転をした場合:3年以下の懲役又は50万円以下の罰金

■運転者が酒気帯び運転をした場合:2年以下の懲役又は30万円以下の罰金

(2)行政上の責任

刑事上の責任と同様,同乗者が,飲酒運転であることを知りながら,自らを乗せることを要求したり,依頼した場合には,以下で述べるとおり,自らが飲酒運転をした場合と同様の行政上の責任を負うことになります。

■酒酔い運転の場合:欠格期間3年の免許取消(違反点数35点)

■酒気帯び運転の場合:①体内のアルコール量が呼気1Lにつき0.25mg以上の場合,欠格期間2年の免許取消(違反点数25点),②体内のアルコール量が呼気1Lにつき0.15mg以上0.25mg未満の場合,90日間の免許停止(違反点数13点)

(3)民事上の責任

飲酒運転に対する社会的批判が高まっていることから,飲酒運転により交通事故が発生した場合,運転者だけでなく,同乗者に対しても,民事上の責任を追求する事例が見られるようになっており,裁判例においても,以下で述べる通り,同乗者の責任を肯定した例もあります。

■肯定例

・最判昭和43年4月26日判時520号47頁

:運転者が酩酊のため,他人所有の自動車の操作を誤り,同車を損壊したという事案について,飲酒直後に自動車を運転することを知りながら酒を提供して飲酒を勧め,飲酒運転するのを制止せずに同乗した者について,共同不法行為責任を認めた原判決を正当として是認した例。

・仙台地判平成19年10月31日判タ1258号267頁

:同乗者が,運転者とともに長時間飲酒し,運転者が相当程度飲酒していることをわかっていながら,運転を制止するどころか,自宅に送ってもらうよう頼んで自動車を運転させ,その結果,運転者が赤信号を見落として事故を起こしたという事案について,同乗者の責任を肯定した例。

他方で,同乗者の責任を否定した例もあります。

■否定例

・京都地判昭和61年1月30日交通民集19巻1号140頁

:飲酒運転をして事故を起こした運転者とともに飲酒した同乗者につき,運転者が自動車を運転するのを知り又は知り得べき状況の下で飲酒をともにしたものではなく,かつ,酒を提供したり積極的にすすめていたわけではなく,飲酒後の運転も運転者の方から勧誘し,能動的にしたものであって,しかもその際運転者がほとんど変わったところがなかったとして,同乗者の責任を否定した例。

以上の裁判例を見ますと,民事上の責任についても,単に飲酒運転している車両に同乗しているだけで損害賠償責任が認められるわけではなく,同乗者が,運転者の飲酒運転を制止すべき注意義務を負っていたにもかかわらず,それを怠ったと評価できる場合に限って,損害賠償責任が肯定されているということができます。そして,実際の事例においては,①運転者が飲酒後に運転することを認識していたかどうか,②共に飲酒した時間や飲酒量,③運転者が酒に酔い,正常な運転ができない状態であることを認識していたかどうか,④運転者との人間関係,⑤同乗の経過等の諸事情を考慮して,同乗者に上記の注意義務の有無が判断されているものと思われます。

以上の通り,自ら飲酒運転をした場合はもちろんですが,飲酒運転になることを知りながら自動車に乗せてもらった場合でも,大きな法的責任を負うことになります(それだけでなく,飲酒運転により,職を失うなどの社会的責任を問われる可能性もあることは言うまでもありません。)。この通り,飲酒運転には多大なリスクを伴うことをご理解いただき,「飲んだら乗るな。乗るなら飲むな。」を実践いただければと願っております。

弁護士 野田 俊之

 

 

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