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交通事故の知恵袋

逸失利益(会社役員で,減収がない場合)

-逸失利益

 

交通事故によって傷害を被り,後遺障害が生じた場合,後遺障害によってそれまで行っていた仕事が今までどおりにはできなくなってしまうということがあり得ます(労働能力の低下ないし喪失)。この場合,後遺障害がなければ得られていたであろう収入等の利益のことを「逸失利益」と呼び,相手方に対して損害賠償請求を求めることができます。

 

-減収がない場合

 

ところが,事故後も減収がなく,従前と同様の収入を得られている場合が,実際にはしばしばあります(役員報酬という形で受け取っている場合など)。

 

この場合,労働能力が低下しているにもかかわらず,減収がないのであるから,将来の逸失利益ということが想定できず,相手方への損害賠償請求は認められないのではないか,という問題があります。

 

この点について,判例は,「後遺症が被害者にもたらす経済的不利益を肯認するに足りる特段の事情」がある場合であれば,現実の減収がなくても後遺障害逸失利益が認められることがあるとしています(最三小判昭和56年12月22日等)。

 

上記特段の事情としては,①「収入の減収を回復させるために本人が特別の努力をしていることなどによって減収していないだけで,それがなければ減収になっているはずであるというような場合,②職業の性質に照らして,昇給・昇任・転職などに際して不利益な取り扱いを受けるおそれがある場合などが挙げられています。

 

したがって,実際の減収がない場合には,上記のような特段の事情があるかどうかを,事案に応じて個別具体的に検討し,判断することとなります。

 

-会社役員の場合

 

会社役員の場合にもう一点問題となるのは,会社役員が役員報酬という形で収入を得ている場合,そのうち労務提供の対価となる部分はいくらであるかという点です。

 

この点については,会社の規模(同族会社か否か)・利益状況,当該役員の地位・職務内容,年齢,役員報酬の額,他の役員・従業員の職務内容と報酬・給料の額(親族役員と非親族役員の報酬額の差異),自己後の当該役員と他の役員の報酬額の推移,類似法人のと役員報酬の支給状況といった点を考慮するとされています。

 

 

-裁判例

 

裁判例には,たとえば,以下のようなものがあります。

 

 

・名古屋地裁平成19年10月26日交民40・5・1386

:背部の疼痛が残り、また、頚部、腰部の疼痛、左上肢のしびれが出ることがあり、長時間、上を見る姿勢を取ることや、脚立やはしごの上り下りや、前かがみの姿勢でハンマーを使う作業を長時間おこなうことなどが困難となっているという状況のもとで,

 

「原告は上記後遺障害による疼痛や疲れやすさのため,実際に就労する上で相当程度の制約を受けており,原告の業務内容に照らすならば,その制約の程度は軽微なものとはいえず,原告X1は,相当の努力によって上記後遺障害による症状に耐えつつ業務を遂行しているものと認められる。」

 

本件事故後,原告会社に対する比較的規模の大きい工事の発注が続いたことによって,原告会社の売上は従前に比して増え,そのために,税理士の指導もあって原告X1の役員報酬が増額されることになったものであることが認められるところ,原告会社において今後ともそのような売上が見込めるものとまでは考えにくい。」

 

「原告会社においては,原告X1が代表取締役であり,原告X1の妻であるCとその母の二人が取締役となっているが,実際に原告会社の業務に従事しているのは原告X1とCの二人のみであって,他に常時雇用している従業員はいない。)であることからして,現在,業績が好調であるからといって,今後とも安定した業績を得られることが確実とは解しがたい。そして,将来,原告X1が就職したり転職したりする際において,原告X1の上記後遺障害が原告X1にとって不利益な影響を及ぼすおそれがあることは明らかである。」

 

として,事故後の現実の収入の減少はない場合において,なお,後遺障害による逸失利益の発生を損害として認めるのが相当であるとした裁判例です。

 

・名古屋高判平成26.11.28自保ジャーナル1937・119

「控訴人は,被控訴人の収入が本件事故後にほとんど減少していないことを指摘する。しかし,被控訴人は,本件事故前からフェンス工事業を営んでいたところ,受注内容を公共工事から一般家庭向けの工事に変える,稼働時間を増やす,現場作業以外の作業も受注する,他の従業員の手を借りるなどの工夫をしつつ,右足の後遺障害を抱えながら自ら現場作業に従事することで,大幅な減収を防いでいると認められる(乙8,9,原審における被控訴人本人)。これは,被控訴人の特段の努力によるものといえるし,被控訴人において,加齢後も上記の後遺障害を抱えながら現場作業に従事できるとは限らず,将来にわたり現在の減収がない状態を維持できるかは不明といわざるを得ない

として,自己後の収入の減少がほとんどない事案について,67歳までの33年間,労働能力の67%を喪失したと認定した裁判例です。

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