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交通事故の知恵袋

実況見分調書の取得方法

■ポイント

 

1.捜査期間中は取得することができない。


2.刑事事件の進展状況(①刑事事件として被疑者が不起訴処分となった時点以降、②刑事事件として被疑者が起訴され判決が確定するまでの間、③判決が確定した以降の段階)によって請求根拠、請求先、請求主体が異なる。

 

3.①刑事事件として被疑者が不起訴処分となった時点以降は、被害者等が警察の事故担当者に送致先の検察庁、送致日、送致番号を確認後、送致先の検察庁へ連絡し、送致日と送致番号を伝えて実況見分調書の謄写を申請する(第3、2.1参照)。

具体的な手続については、全国各地の検察庁に被害者支援制度として設置されてる「被害者ホットライン」を活用する。

 

4.②刑事事件として被疑者が起訴され判決が確定するまでの間は、被害者等が事件が係属する裁判所において閲覧謄写請求を行う(第3、2.2参照)。

 

5.③判決が確定した以降の段階では、原則として誰でも請求することができ、事前に裁判を受けた者の氏名、罪名、各審級における判決日(及び確定日)を確認し、検察庁(第1審の裁判をした裁判所に対応する検察庁)へ申請する(第3、2.3参照)。

 

第1 実況見分調書とは?

 

2015年5月10日付け「実況見分調書はどのように作成されるのか―実況見分に臨む際の注意点」にも記載したとおり、実況見分、すなわち「犯罪現場等において、身体又は物について事実発見の必要があるときに行われる、その物の形状や性質を五官の作用で感知する行為(強制処分である「検証」と同じ内容のことを任意処分として行う場合)」の結果を書面の形式で報告する文書です。

 

第2 民事事件における実況見分調書の役割

 

近時のドライブレコーダーの普及によって、事故状況を撮影したビデオが証拠として提出されることも増えたものの(その他には、防犯ビデオのカメラの映像に事故状況が偶然映されており、証拠として提出されることもあります。)、依然として、直接事故状況を撮影したビデオが存在しない事案の方が多いのが現実です。

 

そのような事案において、裁判所の認定で非常に重視される証拠が実況見分調書です。

 

もちろん、実況見分調書に記載されていることが全てではなく、実況見分調書にも誤りが記載されていることも決して珍しくありません。

 

しかし、実況見分が捜査規定等に基づき、関係者の立会の下、指示説明を受け、合理的な見分結果が正確に記載されているという建前は強く、基本的には、実況見分調書の記載に沿った事実が認定されることになります(実況見分調書以外に、裁判官が依拠できるその他の証拠がないということも理由の一つですが。)。

(※実況見分の実施方法や実況見分調書の作成方法については、2015年5月10日付け「実況見分調書はどのように作成されるのか―実況見分に臨む際の注意点」の記載をご覧ください。)

 

その意味で、少し大げさな表現ではありますが、(事故状況を直接録画したビデオがない限り)実況見分調書によって事故状況がおおよそ決まってしまうと言っても過言ではありません。

 

第3 実況見分調書の取得方法


以上のように、実況見分調書は、裁判になる際はもちろん重要な証拠になりますが、裁判になる以前から事故状況に争いがあることは多々あり、その協議の際にも有用な資料となるため、事故状況に争いがある事案では是非とも取得したい資料と言えます。

 

以下、実況見分調書の取得方法についてご説明します。

 

1.申請可能時期


実況見分調書の申請が可能な時期は、刑事事件として、被疑者が起訴又は不起訴のいずれかの処分がなされた後でなければ申請をすることができません(そのため、警察での捜査中の段階では開示申請をすることができません。)。

 

2.申請時期に応じた開示請求の根拠と具体的請求方法

 

刑事事件の進展に応じて、①刑事事件として被疑者が不起訴処分となった時点以降、②刑事事件として被疑者が起訴され判決が確定するまでの間、③判決が確定した以降の段階に分かれますが、それぞれの段階で請求根拠が異なります。

 

2.1 ①不起訴処分となった時点以降

 

2.1.1 根拠規定等


刑事訴訟法第47条但書、平成20年11月19日付け法務省刑事局長通達(同年12月1日施行)、記録事務規程(最終改正:平成25年3月19日法務省刑総訓第6号〔同年4月1日施行〕)第17条、第25条以下

 

「不起訴記録については、刑事訴訟法47条により、非公開が原則とされるが、同条ただし書により、「公益上の必要その他の事由があって、相当と認められる場合は、この限りでない。」とされており、検察庁においては、従来から交通事故に関する実況見分調書等の証拠につき、当該事件に関連する民事訴訟の係属している裁判所からの送付嘱託や弁護士会からの照会に応じてきたところであるが、被害者等が民事訴訟等において被害回復のため損害賠償請求権その他の権利を行使するために必要と認められる場合には、捜査・公判に支障を生じたり、関係者のプライバシーを侵害しない範囲内で、被害者等からの請求でも客観的証拠で、かつ、代替性がなく、その証拠なくしては、立証が困難であるという事情が認められるものについて、これに応じるなど弾力的な運用を行っている。

 

2.1.2 開示基準

 

被害者参加対象事件か否かよって開示基準が異なります。

 

■被害者参加対象事件

ア 故意の犯罪行為により人を死傷させた罪

イ 刑法第176条から第178条まで,第211条,第220条又は第224条から第227条までの罪

ウ イに掲げる罪のほか,その犯罪行為にこれらの罪の犯罪行為を含む罪(アに掲げる罪を除く。)

エ アからウに掲げる罪の未遂罪

 

① 被害者参加対象事件の場合


・目的

 

民事訴訟等において被害回復のための損害賠償請求権その他の権利を行使する目的である場合に加え、「事件の内容を知ること」等を目的とする場合であっても原則として閲覧を認められます。

 

・対象不起訴記録

 

実況見分調書や写真撮影報告書等の客観的証拠について、原則として、代替性の有無にかかわらず、相当でないと認められる場合を除き、閲覧を認める運用がなされています。

 

② 被害者参加対象事件以外の場合


・目的

 

民事訴訟等において被害回復のための損害賠償請求権その他の権利を行使する目的である場合に限り閲覧を認める運用がなされています。

 

・対象不起訴記録

 

客観的証拠であって、当該証拠が代替性に乏しく、その証拠なくしては立証が困難であるという事情が認められるものについて、閲覧・謄写の対象とし、代替性がないとまではいえない客観的証拠についても、必要性が認められ、かつ、弊害が少ないときは、閲覧・謄写を認める運用がなされています。

 

2.1.3 申請主体

 

被害者等若しくは当該被害者の法定代理人又はそれらの代理人たる弁護士

 

2.1.4 申請方法

 

まず、警察の事故担当者に送致先の検察庁、送致日、送致番号を確認します。

 

次に、送致先の検察庁へ連絡し、送致日と送致番号を伝えて実況見分調書の謄写(コピー)を申請します(前提として不起訴処分とされているか否かの確認も必要になります。)。

 

全国各地の検察庁に被害者支援の制度として「被害者ホットライン」が設置されており、記録開示手続についても相談に応じてもらうことが可能です(被害者ホットライン連絡先一覧)。

 

2.2 ②刑事事件として被疑者が起訴され判決が確定するまでの間

 

2.2.1 根拠規定等

 

犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律(犯罪被害者保護法)第3条及び第4条

 

(被害者等による公判記録の閲覧及び謄写)

※「被害者等」…被害者又は被害者が死亡した場合若しくはその心身に重大な故障がある場合におけるその配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹をいう(第2条)

第三条 刑事被告事件の係属する裁判所は、第一回の公判期日後当該被告事件の終結までの間において、当該被告事件の被害者等若しくは当該被害者の法定代理人又はこれらの者から委託を受けた弁護士から、当該被告事件の訴訟記録の閲覧又は謄写の申出があるときは、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、閲覧又は謄写を求める理由が正当でないと認める場合及び犯罪の性質、審理の状況その他の事情を考慮して閲覧又は謄写をさせることが相当でないと認める場合を除き、申出をした者にその閲覧又は謄写をさせるものとする。


2項、3項 略

 

(同種余罪の被害者等による公判記録の閲覧及び謄写)

第四条 刑事被告事件の係属する裁判所は、第一回の公判期日後当該被告事件の終結までの間において、次に掲げる者から、当該被告事件の訴訟記録の閲覧又は謄写の申出があるときは、被告人又は弁護人の意見を聴き、第一号又は第二号に掲げる者の損害賠償請求権の行使のために必要があると認める場合であって、犯罪の性質、審理の状況その他の事情を考慮して相当と認めるときは、申出をした者にその閲覧又は謄写をさせることができる。

一 被告人又は共犯により被告事件に係る犯罪行為と同様の態様で継続的に又は反復して行われたこれと同一又は同種の罪の犯罪行為の被害者

二 前号に掲げる者が死亡した場合又はその心身に重大な故障がある場合におけるその配偶者、直系の親族又は兄弟姉妹

三 第一号に掲げる者の法定代理人

四 前三号に掲げる者から委託を受けた弁護士

2項~4項 略

 

2.2.2 開示基準

 

・被害者等からの請求について


検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、閲覧又は謄写を求める理由が正当でないと認める場合及び犯罪の性質、審理の状況その他の事情を考慮して閲覧又は謄写をさせることが相当でないと認める場合を除き開示がなされます。

 

・同種余罪の被害者等からの請求について

 

請求者の損害賠償請求権の行使のために必要があると認める場合であって、犯罪の性質、審理の状況その他の事情を考慮して相当と認めるときに開示がなされます。

 

2.2.3 申請主体

 

3条:

事件の被害者等若しくは当該被害者の法定代理人又はこれらの者から委託を受けた弁護士

 

4条:

① 被告人又は共犯により被告事件に係る犯罪行為と同様の態様で継続的に又は反復して行われたこれと同一又は同種の罪の犯罪行為の被害者

② ①に掲げる者が死亡した場合又はその心身に重大な故障がある場合におけるその配偶者、直系の親族又は兄弟姉妹

③ ①に掲げる者の法定代理人

④ ①~③に掲げる者から委託を受けた弁護士

 

2.2.4 申請方法

 

裁判が係属する裁判所において、申出人の氏名又は名称及び住所、閲覧又は謄写を求める訴訟記録を特定するに足りる事項等を記載した書面で申し出る必要があります(犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する規則第2条~第4条)。

 

2.3 ③判決が確定した以降

 

2.3.1 根拠規定等

 

刑事確定訴訟記録法第4条、記録事務規程(最終改正:平成25年3月19日法務省刑総訓第6号〔同年4月1日施行〕)第17条

 

(保管記録の閲覧)

第四条 保管検察官は、請求があったときは、保管記録(刑事訴訟法第五十三条第一項の訴訟記録に限る。次項において同じ。)を閲覧させなければならない。ただし、同条第一項ただし書に規定する事由がある場合は、この限りでない。

 

例外:

刑事訴訟法第53条1項但書

第五十三条 何人も、被告事件の終結後、訴訟記録を閲覧することができる。但し、訴訟記録の保存又は裁判所若しくは検察庁の事務に支障のあるときは、この限りでない。

2項~4項 略

 

2.3.2 申請主体

 

制限なし。

 

2.3.3 申請方法

 

事件を特定するため、裁判を受けた者の氏名、罪名、各審級における判決日(確定日)を確認しておき、保管記録閲覧請求書、謄写申出書を作成し、検察庁へ提出します。申請先は、検察庁(第1審の裁判をした裁判所に対応する検察庁〔刑事確定訴訟記録法第2条第1項〕)となります。

 

具体的な手続については、被害者ホットラインを活用いただくといいでしょう。

 

以上

(弁護士 武田雄司)

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