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車両放置のリスク―放置違反金制度について

■ポイント


1.放置違反金制度は、自分が運転し放置していなくても、運転者が反則金を支払わない場合には、車両の使用者として放置違反金の納付命令を受ける制度。


2.自転車以外はほぼ全ての車両が対象となる。


3.車両を止めて、数十メートルも離れているような場合には、「その運転者がこれを離れて直ちに運転することができない状態にあるもの」と判断され、放置車両の認定がなされる可能性が高い。


4.運転者が駐車禁止違反行為に対して反則金を支払えば、放置違反金制度の手続は終了する。


5.大きな手続の流れは、次のとおり。

①放置車両の標章の貼り付け

②弁明書の送付

③仮納付

④納付命令

⑤督促・滞納処分


6.納付期限を渡過すると、放置違反金につき年14.5パーセントの割合により計算した額の範囲内の延滞金及び督促に要した手数料が徴収される。


7.督促後は差押等の滞納処分が取られる。


8.放置違反金納付命令についての不服申立ては、公安委員会に対する異議申立てのみが認められる。

 

第1 はじめに

 

交通反則通告制度(反則金制度)について」の中では、車両を友人に貸していたケースを挙げ、駐車違反行為が発生した場合、運転者には反則金が、運転者が反則金を一定期間内に反則金を支払わない場合には、放置違反金が科せられることになると解説を致しました。

 

本稿では、交通反則通告制度とは別に設定されている放置違反金制度について解説致します。

 

第2 放置違反金制度の概要

 

1.制度目的・概要


駐車違反をした運転者の特定が困難であり、駐車違反という反則行為(その前提としての道路交通法違反)の立証という問題に対処するため、駐車違反の状態にある車両について、運転者の責任を追及できる場合以外は、違反の防止に必要な運行管理を行うべき立場にある車両の使用者の責任を追及することを目的に、「放置違反金制度」が創設され、平成18年6月1日から施行されています(道路交通法第51条の4)。

 

2.対象車両

 

対象車両は、違法駐車と認められる場合における車両(軽車両にあっては、牽引されるための構造及び装置を有し、かつ、車両総重量が750kgを超えるものに限られます。)であって、その運転者がこれを離れて直ちに運転することができない状態にあるもの(=放置車両)です(道路交通法第51条の4第1項)。

 

そのため、以下の車両は放置違反金制度の対象となりますが、自転車は対象外です。

 

・大型自動車

・中型自動車

・大型特殊自動車

・重被牽引車(750kg超のもの)

・普通自動車

・大型自動二輪車

・普通自動二輪車

・小型特殊自動車

・原動機付自転車

 

「その運転者がこれを離れて直ちに運転することができない状態にあるもの」とは、その車両等が交通の妨害になるため移動する必要が生じても、直ちに運転することができないような状態のことをいいます。

 

直ちに運転をするためには、少なくとも現場の交通の状況を把握でき、すぐに車両に乗車できることが必要とされています。

 

そのため、自動販売機の前で車両を止めて降りて飲み物を購入するような場合には、直ちに運転できる状態の範囲内と見て差し支えないものの、車両から数十メートルも離れているような場合には、「その運転者がこれを離れて直ちに運転することができない状態にあると判断されることになります。

 

3.放置車両の確認及び確認標章の取付

 

警察官、交通巡視員又は駐車監視員が放置車両を確認した場合、確認した旨などを告知する放置車両確認標章(確認標章)を車両の見やすいところに取付けます(道路交通法第51条の4第1項)。

 

当該標章には、運転者が反則金の納付又は刑事手続を受けなかった場合には、当該車両の使用者が放置違反金の納付を命ぜられることがある旨が告知されています。

 

※当該標章を、車両の使用者及び運転者が取り除く場合を除き、破損、汚損又は取り除くと、2万円以下の罰金又は科料が科せられ(道路交通法第121条第1項第9号)、当該違反行為には反則金制度の適用はありません。

 

⇒ここで、標章が取り付けられた日の翌日から起算して30日以内に、運転者が警察署に出頭する等の方法で反則金制度に基づき、反則金を納付した場合等には、放置違反金制度の手続は終了します。

 

4.弁明の機会の付与

 

警察署長から公安委員会に車両の駐車状況について報告され、公安委員会が放置違反金の納付を命令しようとするときは、弁明通知書を車両の使用者に送付し、相当な期間(概ね1週間~2週間程度)弁明書及び有利な証拠の提出する機会が付与されます(道路交通法第51条の4第6項)。

 

5.仮納付

 

弁明の機会を付与された者は、弁明書の提出期限までに放置違反金相当額を仮納付することが認められています(道路交通法第51条の4第9項)。

 

仮納付をした場合、放置違反金の納付命令は公示による方法(公安委員会の掲示板に放置違反金公示納付命令書を掲示してなされます。)で納付命令がなされ、当該納付命令によって、放置違反金の納付とみなされ、手続は終了します(道路交通法第51条の4第10項、11項)。

 

6.放置違反金の納付命令

 

弁明の機会の付与を経て、かつ、運転者が警察署に出頭する等の方法で反則金制度に基づき反則金を納付しなかった場合、公安委員会が放置車両と認めるときは、当該車両の使用者に対し、車両に標章が取り付けられた日の翌日から起算して30日を経過した以降の日に放置違反金の納付を命じることになります(道路交通法第51条の4第4項)。

 

放置違反金の納付命令は、放置違反金の額並びに納付の期限及び場所を記載した文書により行われます(道路交通法第51条の4第5項)。

 

そのため、具体的には、車両の所有者として登録されている者宛に、当該者の住所へ納付命令書が郵送されることになります。

 

7.放置違反金の納付

 

納付命令を受けた使用者は、放置違反金納付命令書とあわせて送付される納付書により放置違反金を納付することができます。放置違反金額は、その違反についての反則金の額と同額になります。

 

放置違反金の金額については、警視庁HPを参照ください。

 

8.督促・滞納処分

 

納付命令を受けた者が納付の期限を経過しても放置違反金を納付しないときは、公安委員会による督促を経て、滞納処分の対象となります(道路交通法第51条の4第13項、14項)。

 

具体的には、公安委員会は、放置違反金につき年14.5パーセントの割合により計算した額の範囲内の延滞金及び督促に要した手数料を徴収し、指定期限までに放置違反金並びに延滞金及び手数料が納付されないときは、地方税の滞納処分の例により、放置違反金等を差押え等の方法により徴収することになります。

 

第3 不服申し立て


放置違反金納付命令は、車両の使用者に対する不利益処分であり、これに不服のある者は、行政不服審査法に基づく不服申立てや行政事件訴訟法に基づく取消訴訟を行うことができます。

 

具体的には、放置違反金納付命令を行う公安委員会には上級行政庁が存在しないことから、放置違反金納付命令についての不服申立ては、公安委員会に対する異議申立てのみが認められることになります(但し北海道のみ別。)(行政不服審査法第6条第1号)。

 

この点は、納付しなければ元々の刑事手続が開始し、刑事手続内において不服を申立てることとなる反則金制度と根本的に異なる点であり注意が必要です。

 

以上

(弁護士 武田雄司)

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