交通事故のご相談は賢誠総合法律事務所まで

交通事故の知恵袋

症状固定後の治療費・将来治療費

 

交通事故により傷害を受けた被害者は,まずは,その傷害の療養のために,それが治癒するか,又は症状が固定し後遺障害が確定するまでの間,治療費その他の費用を負担することとなります。

 

ここにいう「療養」とは,一般に,「傷病に対して行われる医学上一般に承認された治療方法」をいい,また,「症状」の「固定」とは,「療養をもってしても,その効果が期待し得ない状態(療養の終了)で,かつ,残存する症状が,自然的経過によって到達すると認められる最終の状態に達したとき」をいうものと解されています(昭和50年9月30日付労働省(当時)労働基準局長通達(基発第565号))。

要は,これ以上治療を尽くしても,症状が改善することはない,という状態のことです。

 

症状固定日までの治療費は,事故により被った損害の一つとして,損害賠償の対象となります。

ところが,症状固定後に通院等により負担した治療費は,原則として賠償対象としては認められないとされています。

上記のとおり,症状固定とは,治療しても症状が改善しない状態のことをいうので,症状固定後に治療をしても,いわば無駄な費用の支出となり,加害者に負担させるのは不相当ということになるからです。

 

もっとも,症状固定後であっても,症状の内容,程度,治療の内容により必要性・相当性が認められる場合,例えば,

①いわゆる植物状態(遷延性意識障害)になったとき等で生命を維持するうえで将来治療費を支払う必要性・蓋然性が認められる場合,

②治療によって症状の悪化を防止する必要性が認められる場合,

③症状固定後も強い身体的苦痛が残り,苦痛を軽減するために治療の必要性が認められる場合

等の事情があれば,損害賠償の対象として認められることもあります。

 

また,このような治療行為が将来にわたって行われる必要があれば,「症状固定後の治療費」というよりも,「将来治療費」として,損害賠償を請求することができます。

「将来治療費」には,症状悪化を防ぐための医療行為だけでなく,将来一定時間経過後に必要となることが予想される手術費用等も含まれます(詳細は省きますが,将来治療費が認められる場合,治療費の他に,将来の付添看護料,入院雑費,交通費も認められる余地があります)。

 

裁判例では,

①東京地判平成7.10.31自保ジャーナル1131号

症状固定時60歳・女性・会社代表取締役の後遺障害(てんかん等,障害等級9級)につき, 症状固定後も将来にわたりてんかん予防と脳の能力悪化防止のため,抗痙攣剤の服用と年1回の脳波検査,MRI検査の実施が必要であるとし,抗痙攣剤年額10万9,920円,脳波検査及びMRI検査費用年額10万円を,平均余命の24年間分につき認めた例

 

②東京地判平成17・1・17交民38巻1号57頁

症状固定時57歳・男性・会社役員の後遺障害(脊髄損傷,頚髄損傷による右上肢機能障害,右下肢機能障害,障害等級5級)につき,今後も日常生活動作を維持するための理学療法・薬学療法を要するとして症状固定時からの平均余命23年間のリハビリ治療費として289万7,969円を認めた例

 

③東京地判平成21・11・16交民42巻6号1487頁

35歳・女性・会社員の後遺障害(右膝関節及び右足関節の機能障害,右下肢の機能障害,右下肢の醜状障害,併合等級10級)につき,右下肢の皮膚機能の低下等を認め,保湿機能を高めて乾燥を予防するため,保護クリームを生涯にわたって常用する必要があるとして月額1,700円の治療費を平均余命まで認めた例

 

④東京地判平成17・10・27交民38巻5号1455頁

25歳・男性・新聞記者の後遺障害(脊髄損傷による完全対麻痺等,障害等級1級3号)につき,将来の手術時期,治療費,入通院期間等を確定することができないことから,プレート除去費用及び化骨除去費用としては100万円を下らないとしてその限度で認めた例

 

など,多くの例があります。

 

ただし,このような治療費が損害として認められるためには,将来の治療費の支出の必要性・相当性,支出の蓋然性(可能性)・金額について,被害者側で主張・立証する必要があり,診断書や意見書に記載された医師の意見とともに,診療記録,過去及び現在の治療費に関する診療報酬明細書,被害者又は近親者の報告書・陳述書等から具体的に認められる症状固定後の治療状況が考慮されることになります。

 

以上のとおり,症状固定後の治療費,将来治療費が損害賠償の対象として認められるかどうかは,症状の内容,程度,治療の内容,それらを立証する上記の証拠資料が存在するかどうかによって,ケース・バイ・ケースですが,実際に医師から症状固定と診断された後にも治療を継続されている場合には,医師に対し治療継続の必要性等について詳細に記録として残してもらうように依頼するといった,損害賠償の対象として認められる可能性を高める工夫をすることが大事かと思われます。

Pagetop