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医療法務の知恵袋

医療法務の知恵袋(25)【社員が退社した場合の問題③】

 

Question

 

私は,平成19年以降に設立された,いわゆる出資持分のない基金拠出型医療法人の理事長を務める者です。

 

今般,当医療法人設立の段階から社員(拠出基金:金1000万円)であったAさんが,退社することとなりました。

 

この場合,Aさんから基金の返還を求められた場合,支払う必要があるのでしょうか。

 

またその場合,どのような手続を踏まなければならないでしょうか。

 

 

 

1 出資持分がない医療法人なのに,返還する必要があるのか?

 

 

以前,お伝えした通り,平成19年4月以降に設立される社団医療法人は,出資持分のない医療法人のみとなりました。

 

そうすると,出資持分がない以上,社員が退社する場合であっても,以前の出資金の返還のような問題は生じないとも思えます(出資持分のある医療法人における出資金返還の問題は,前回の知恵袋(24)をご参照ください)。

 

しかしながら,そうすると,誰も医療法人設立時に財産を提供しないことにもなりかねません。

 

そこで,医療法では,医療法人の財産的基盤の形成・維持を図るため,基金制度を用いた社団医療法人を認めました。

 

 

基金拠出型医療法人では,設立時等に,第三者(主には社員ですが,社員に限られません)から基金の拠出を受けることができますが,この医療法人は,基金拠出者との合意の定めるところに従い,その基金を後に返還することとなります。

 

ただし,その基金の返還は,単に基金拠出者が退社しただけでは足りず,以下でご説明する手続き等を経る必要があります。

 

 

2 基金返還にあたっての手続等

 

 

まず,基金の返還は,定時社員総会の決議によって行わなければなりません(医療法施行規則30条の38第1項)。

 

したがって,例えば,基金拠出者が,現在の社員の方々との関係が悪化しているような場合には,定時社員総会の決議を経ることが出来ず,基金のスムーズな返還が受けられない可能性があります。

 

 

また,基金を返還する場合であっても,基金には利息を付することはできず(医療法施行規則30条の37第2項),さらには医療法人の貸借対照表上の純資産額が基金総額等の合計額を超える場合にのみ,その超過額を返還の総額の限度としなければならない(医療法施行規則30条の38第2項)等の制限があります。

 

そのため,仮に基金が返還される時点で医療法人の経営状況が悪ければ,満足いく基金の返還を受けられない可能性もあるでしょう。

 

 

3 まとめ

 

 

以上の通り,基金拠出型医療法人の場合,出資持分がないとはいえ,基金拠出者には,基金を返還しなければならない場合があります。

 

ただ,その場合であっても,医療法施行規則や定款等の定めにしたがって,必要な手続等を踏む必要があります。

 

仮に返還できる限度を超えて基金を返還してしまった場合,当該返還に関する業務を行った業務執行理事等は,返還を受けた者と連帯して,医療法人に対し,返還した額を弁済する責任を負うと考えられています(※)。

 

そのため,基金拠出者から基金の返還を求められた場合,理事長やその他の業務執行理事の方々は,医療法施行規則や定款,そして医療法人の貸借対照表等の決算書の内容に注意しながら,対応することが求められます。

 

 

 

※厚生労働省医政局長平成19年3月30日医政発第0330051号「医療法人の基金について」第2・10参照。

 

 

(弁護士 高橋健)

 

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